平成元年の8月に、ひょんなきっかけで、二人のイタリア人のお宅に泊めて頂けた。
1件目は、ボローニャの近くの街、フェラーラ。私がボローニャでロストバゲッジにあってしまい、宿を取って1泊して、翌日、空港まで行った時にも、荷物が届いてなかった。そこにいたイタリア人の女子がちょうど彼女のロストバゲッジを受け取ってお家に帰ろうとしていたところだった。
で、彼女(アナリタちゃん)が、「私も何日も荷物が受け取れなくて大変だったから、宿まで車で送ってあげるよ。」と言ってくれて、彼女の車に乗っけてもらった。
プジョーの車だったと思う。加速のよさが自慢なのか、交差点でブレーキを踏まず、躊躇なくつっこんでハンドル操作で側面からの衝突回避をしつつ、快調に飛ばすアナリタちゃん。
あぁぁぁぁぁあ、おとなしい運転が通用する日本では車の運転をしなくっちゃ、日本でびびってたらあかんわ。私の運転ではイタリアは無理、と思った。
なんだかんだ、しゃべっているうちに、アナリタちゃんが言った。「私、ボローニャ大学の学生なんだけど、ニューヨークに留学することに決まってるの。英語で話す練習になるし、ウチに泊めてあげる」と言ってくれた。
変な、危険な人ではない、という保証などないのに、翌日、お家に泊めて頂きました。
その日、アナリタちゃんのおじいちゃんも一緒で、カフェでなぜかサラダを食べて、アナリタちゃんは大学に行き、私はベネチアに行き、夕方会って、彼女の送別パーティーに呼んで頂けるはずだったのに、雨だったからか電車の架線が切れたとかで、途中の駅で、電車が止まってしまった。携帯のない時代だったから、1台しかない公衆電話に大勢で並び、乗客でコインを融通しあって、若い女の子に通訳をお願いして、アナリタちゃんのママに窮状を伝えて…。
そこにいたイタリア人は利己的ではなくて親切だった。
結局、2時間後ぐらいに電車が動いて、駅からタクシーでお宅まで行ったら、アナリタちゃんは出かけちゃっていて、イタリア語しかできないアナリタちゃんのママがお出迎えしてくれた。
ずっと、英語ーイタリア語、絵本のような会話本を使って、ずっとママとお話をした。
アナリタちゃんのお家は、本屋さんだったから、英語ーイタリア語会話の本は、恐らく売り物だったんだろうなあ。
もと馬小屋だった建物をリノベしたお家で、素晴らしくイタリアンガーリーなお部屋に泊めて頂けて、恐縮だった。翌朝のごはんは、めっちゃ大ぶりでモダンなカップで出してくれたカプチーノと丸いビスケットだった。朝から甘いビスケットなの?ってビックリしたら、イギリス人とは違うの、イタリアはこうなの、って言われたが、半信半疑だった。
アナリタちゃんの趣味でカップのデザインにはコダワルらしかった。
私のロストバゲッジをどのように取り返したのか?覚えてないけれど、取り返せたのは事実だ。どのように返ってきたんだったっけ?
思いがけず、イタリア人のお宅にお泊め頂けて、調子づいてしまい、ペルージャに英語学校のイタリア人のお友達がいたことを、来たら泊めてあげるよ、と言っていたことを思い出し、あつかましくも電話をしてしまい、ペルージャでも泊めてもらった。
思いがけず、お金持ちのようだった。
ペルージャの街をめぐって、なぜかテニスをして、アラブ馬をお持ちだったので、見せてもらった。
コンドミニアムの1フロアーが自宅というタイプのお住まい。
夏なのに、暖炉に薪をくべ始めので、何が始まるのかなあ?と思ったら、ママがランチを作ってくださって、友達が暖炉でステーキを焼いてくれた。シンプルに美味しかったのを記憶している。他に何が出たのかは覚えてないけれど、美味しかったという記憶しかない。
最後のデザートが感動的だった。
底に濃い目のコーヒー味のしっとりしたフィンガービスケットがあって、甘すぎないやわらかいチーズ風味のクリーム状の層があって、一番上がココア。これ、とても美味しい、なんていう名前?とお友達に聞いたら、
「名前?どってことないよ、ママのドルチェ」みたいな返事だった。
日本に帰ってから、すぐ、ティラミスが大ブームになって、あぁぁぁぁぁあ、アレって、ティラミスと同じものだったな、と気がついた。イタリアでは、めっちゃ美味しかったのに、特に名を名乗るほどでも、というような、謙虚さだった。
そこのお家でも、朝ごはんは、カプチーノとビスケットだったんで、笑ってしまった。2件連続でそうだったから、イタリアの朝ごはんは、頑張らない。甘いビスケットが定番なのだろう、多分。
その翌日だったかなあ、友達がその友達のアルファロメオで、ペルージャからローマの近くの海まで日帰りする!と言い出して、連れていってもらった。現地30分みたいなドライブで、途中、欧州にありがちな片側が崖でガードレールなしの道もあり、なかなかスリリングだった。
邪心なく、いきあたりばったりで、旅を続けたに過ぎないのだけれど、
日本のサラリーマンさんがちゃんとしたレストランでお食事をおごってくれたり、現地の中華料理屋さんで1人でお食事をしていたら、大学生の男の子たちが、まん丸の大きいアイスクリームのフライをおごってくれたり、雨上がりの大聖堂を立って眺めていたら、自らのズボンのお尻で石段を拭いてくれて、隣に座って!お話しましょ!と言われたり、色々なことが面白かった。
危険なことには、なぜか遭遇しなかった。怖いもの知らずだった。
もう二度と、そんな放浪するタイプの旅はできないだろうなあ。
もう若くない、とか、元気でいても生じているに違いない気力・体力的な衰えも、消極的になっちゃう理由でもあるのだと思うけれど、ネットから情報が取れたりしてしまうが故に、情報過多で、いきあたりばったりに人と出会って、展開が変わりゆくような、面白さが少なくて、警戒心だけが大きくなって、逆に通りすがりの人とコミュニケーションが取りにくいというか、そういうことが海外旅行を避ける理由かもしれない。
おどろきに満ちた秘境は、身近なところにもあるので、それでもいいのだ。ご接待をする側にまわるのもいいしね。
しかし、また、イギリス、スコットランド、イタリア、スペイン、ベルリンには行きたいな。(やっぱ行きたいんじゃん、私。)